「ナチュラルワイン」という言葉、最近やたらと耳にしませんか?おしゃれなワインバーやレストランで目にする機会が増え、SNSでも頻繁に話題になっています。でも、いざ「ナチュラルワインって何?」と聞かれると、うまく説明できない人が多いのではないでしょうか。
実はこのナチュラルワイン、「オーガニックワイン」とも違うし、明確な定義すら存在しない不思議なカテゴリーなんです。それなのになぜこれほど人気なのか?普通のワインと何が違うのか?この記事では、ナチュラルワインの本質と、ブームの裏にある文化的背景までを丁寧に解説していきます。
ナチュラルワインの定義—実は明確な基準がない
驚くべきことに、ナチュラルワインには世界共通の公式な定義が存在しません。「えっ、それでいいの?」と思われるかもしれませんが、これがナチュラルワインの最大の特徴であり、同時に議論を呼ぶポイントでもあるのです。
一般的には、以下のような考え方で造られたワインを指します:
- ブドウ栽培において化学肥料や農薬をできるだけ使わない(または全く使わない)
- 醸造過程で添加物や人工的な介入を最小限に抑える
- 亜硫酸塩(酸化防止剤)の添加を極力控える、または無添加
- 自然酵母による発酵を重視する
- 濾過や清澄化などの処理を行わない、または最小限にする
フランスでは2020年に「Vin Méthode Nature」というラベル表示が認められましたが、これも業界団体による自主基準です。EU全体や国際的な法的定義は今のところありません。つまり、生産者の哲学やコミュニティの共通認識によって成り立っているカテゴリーなんですね。
この「曖昧さ」こそが、ナチュラルワインの魅力でもあり、賛否両論を生む理由でもあります。厳格なルールに縛られず、造り手の個性や土地の特徴がダイレクトに表現される—それがナチュラルワインの本質だと言えるでしょう。
オーガニック・ビオディナミ・ナチュラルの違いを整理

ワイン売り場で「オーガニック」「ビオ」「ナチュラル」といった言葉が飛び交っていて、混乱しますよね。実はこれら、似ているようで異なる概念なんです。
オーガニックワイン(有機ワイン)
これは最も明確な定義を持つカテゴリーです。EUでは2012年から「オーガニックワイン」の認証基準が制定されており、日本でも有機JAS規格があります。
具体的には:
- 認証機関による厳格な審査と定期監査がある
- ブドウ栽培で化学肥料・合成農薬を3年以上使用していない畑であること
- 醸造過程でも使用できる添加物が制限される(ただし亜硫酸塩は一定量まで認められる)
- ラベルに認証マークを表示できる
つまり、オーガニックは「法的に定義された客観的な基準」を満たしたワインということです。消費者にとっては、第三者機関のお墨付きがあるという安心感があります。
ビオディナミ(Biodynamic)
ビオディナミは、オーストリアの思想家ルドルフ・シュタイナーが1920年代に提唱した農法に基づいています。オーガニック農法をさらに発展させ、宇宙のリズム(月の満ち欠けや天体の動き)と調和した栽培を行うのが特徴です。
独特なのは:
- 天体暦に従った種まき・剪定・収穫
- 牛の角に牛糞を詰めて土中に埋める「プレパラシオン」という特殊な調剤の使用
- 畑全体を一つの生命体として捉える哲学
- 「デメター」や「ビオディヴァン」といった認証団体が存在する
科学的根拠については賛否両論ありますが、一流ワイナリー(ドメーヌ・ルフレーヴ、ドメーヌ・ルロワなど)がビオディナミを実践しており、結果として素晴らしいワインを生み出しているのは事実です。
ナチュラルワイン
前述の通り、明確な定義はありませんが、一般的にはオーガニックやビオディナミで栽培したブドウを使い、さらに醸造過程での介入を極力減らしたワインを指します。
重要なのは「SO2(亜硫酸塩)無添加または極少量」という点。オーガニックワインでは一定量の亜硫酸塩添加が認められていますが、ナチュラルワインではこれをほぼ使わないか、使っても10〜30mg/L程度(通常のワインは150〜200mg/L程度)に抑えます。
| カテゴリー | 法的定義 | 栽培方法 | 醸造での介入 | 亜硫酸塩 |
|---|---|---|---|---|
| オーガニック | あり(認証必須) | 化学肥料・農薬不使用 | 制限あり | 一定量まで可 |
| ビオディナミ | 認証団体基準あり | 天体暦・調剤使用 | 自然発酵重視 | 極少量 |
| ナチュラル | なし | 有機栽培が前提 | 最小限 | 無添加〜極少量 |
結論として:オーガニックは「入り口」、ビオディナミは「哲学的アプローチ」、ナチュラルは「醸造の自由さ」に重点を置いたカテゴリーと理解するとわかりやすいでしょう。
なぜ今ナチュラルワインが人気なのか: 健康志向とZ世代
2010年代後半から、ナチュラルワインは爆発的に人気を集めています。その背景には、単なるワインのトレンドを超えた社会的・文化的な変化があります。
健康志向とクリーンラベルムーブメント
現代の消費者、特にミレニアル世代とZ世代は「何を体に入れるか」に敏感です。食品の原材料ラベルを細かくチェックし、添加物の少ない「クリーンな」製品を選ぶ傾向が強くなっています。
ナチュラルワインは、この「クリーンラベル」の文脈に完璧に合致しました。亜硫酸塩無添加や自然酵母使用という特徴が、「体に優しい」「二日酔いしにくい」というイメージと結びついたのです。
実際、亜硫酸塩に敏感な人(約1%の人が何らかの反応を示すと言われています)にとっては、ナチュラルワインは福音でした。ただし「二日酔いしない」という主張については科学的根拠は限定的で、飲み過ぎればどんなワインでも二日酔いします。それでも、「よりナチュラル」という感覚が支持を集めているのは間違いありません。
サステナビリティへの関心
気候変動やサステナビリティへの関心の高まりも大きな要因です。ナチュラルワインの生産者の多くは小規模で、土地との関係を大切にし、化学物質に頼らない農業を実践しています。
「大量生産・大量消費」への反発として、「造り手の顔が見える」「ストーリーのある」ワインを選びたいという消費者が増えました。ナチュラルワインは、まさにこうした価値観を体現する存在なんです。
SNS時代の「シェアしたくなる」要素
意外に見落とされがちですが、ナチュラルワインの人気にはSNS文化の影響も大きいんです。
ナチュラルワインのボトルデザインは、個性的でアーティスティックなものが多く、Instagramで映えます。また、「ナチュラルワインバー」というカテゴリー自体が、カジュアルでクリエイティブな空間として人気スポット化しました。東京の「アヒルストア」やパリの「La Buvette」のような店が、新しいワイン文化の発信地になっています。
さらに、ナチュラルワインの「当たり外れ」や「個性的な味」が、逆に話題性を生んでいる側面もあります。「今日飲んだナチュラルワイン、すごく面白い味だった!」という投稿がシェアされ、コミュニティが形成されていくわけです。
価格帯のアクセシビリティ
高級ワインのイメージが強いビオディナミワインに比べ、ナチュラルワインには手頃な価格帯の選択肢が豊富にあります。3,000〜5,000円程度で個性的なワインが楽しめるため、若い世代でも気軽にトライできるのが魅力です。
日本でも、自然派ワイン専門のインポーターが増え、選択肢が広がったことで、より身近な存在になりました。
独特の味わいと「当たり外れ」の真実

正直なところ、ナチュラルワインには「当たり外れ」があります。これは欠点ではなく、ある意味で本質的な特徴なんです。
なぜ味わいにバラツキがあるのか
通常のワインは、醸造技術によって品質を安定させています。温度管理、酵母の選択、濾過や清澄化—これらの工程が、「毎年同じような味わい」を実現しているわけです。
一方、ナチュラルワインはこうした介入を最小限にするため:
- 同じ生産者でもヴィンテージによって味わいが大きく変わる
- ボトルごとに微妙な差が出ることもある
- 開栓後の変化が激しい(良い方にも悪い方にも)
- 保管状態の影響を受けやすい
つまり、「生き物」としての側面が強いんです。これを「面白い」と感じるか「不安定」と感じるかが、ナチュラルワインの好き嫌いを分けます。
独特の香りと味わいの特徴
ナチュラルワインには、通常のワインにはない独特の香りや味わいがあります:
白ワインの場合:
- 濁りがある(酵母や果実の粒子が残っている)
- わずかな発泡感(自然な二次発酵由来)
- リンゴの蜜、ヨーグルト、パンの香り
- 通常より酸味が立っている印象
赤ワインの場合:
- タンニンが柔らかくジューシー
- 冷やして飲めるライトボディが多い
- スパイシーさや野生的な香り
- 果実味がフレッシュで生き生きしている
また、時々「ブレタノマイセス」という酵母由来の動物的な香り(馬小屋、革、汗など)が感じられることがあります。これを「複雑さ」として好む人もいれば、「欠陥」と感じる人もいます。この評価の分かれ目が、ナチュラルワイン論争の核心とも言えます。
失敗しないための選び方とお店選び
初めてナチュラルワインに挑戦する場合、以下のポイントを押さえましょう:
信頼できる専門店で買う:
ナチュラルワインは保管状態が命です。温度管理が適切で、回転率の良い専門店(ヴィノスやまざきの自然派コーナー、自然派専門店など)で購入すると失敗が少なくなります。
飲食店でまず試す:
ナチュラルワインバーやビストロでグラスワインとして試してから、気に入ったものをボトルで購入するのが賢明です。ソムリエに好みを伝えれば、最適なものを選んでくれます。
開栓後は早めに:
酸化防止剤が少ないため、開栓後は通常のワインより早く変化します。基本的には当日中、遅くとも翌日までに飲み切るのがおすすめです。
初心者におすすめの入口: まずはこの3タイプから

ナチュラルワインに興味はあるけれど、どこから始めればいいかわからない—そんなあなたに、入門に最適な3つのタイプをご紹介します。
1. ペティアン・ナチュレル(微発泡の白・ロゼ)
最も失敗が少なく、万人受けしやすいのがこのカテゴリーです。
ペティアン・ナチュレル(Pet-Nat)は、瓶内で一次発酵を完了させる伝統的な製法で造られる微発泡ワイン。シャンパンのような二次発酵ではなく、自然な発酵途中で瓶詰めするため、優しい泡とフレッシュな果実味が特徴です。
冷やして飲めば、カジュアルなホームパーティーにもぴったり。価格も2,500〜4,000円程度のものが多く、ナチュラルワインの「楽しさ」を最も気軽に体験できます。ロゼのペティアンは特に女性に人気です。
2. ボージョレー地区のガメイ種
ナチュラルワインの聖地とも言われるボージョレー地区。特にマルセル・ラピエール(故人、現在は息子が継承)やジャン・フォワヤールといった伝説的生産者のワインは、ナチュラルワインの代名詞です。
ガメイ種で造られるこれらのワインは:
- 軽やかでジューシー、赤い果実の爽やかさ
- タンニンが柔らかく、渋みが少ない
- 少し冷やして(14〜16℃)飲むのが美味しい
- 和食にも合わせやすい
「赤ワインは重い」という先入観を持っている人にこそ試してほしいタイプです。まるでフレッシュな果実をかじっているような感覚で、ナチュラルワインの魅力がストレートに伝わります。
3. オレンジワイン(白ブドウの皮ごと醸し)
少し上級者向けですが、ナチュラルワインの面白さを最も感じられるのがオレンジワインです。
白ブドウを赤ワインのように皮や種と一緒に醸す(マセラシオン)ことで、オレンジがかった色合いと独特のタンニンが生まれます。ジョージア(グルジア)で8,000年前から続く伝統製法で、近年世界中で再評価されています。
味わいは複雑で、紅茶、ドライフルーツ、ハーブ、スパイスなど多層的。和食(特に発酵食品)、中華、エスニック料理との相性が抜群です。
初めて飲むときは、癖が強いと感じるかもしれません。でも、2〜3杯目から「このニュアンス、面白い!」と感じる人が多いんです。イタリアのフリウリ地方やスロヴェニア産のものが入門にはおすすめです。
生産者名で選ぶという手も
ナチュラルワイン界には、「この人が造るなら間違いない」という信頼できる生産者がいます。例えば:
- フランス:ジャン・フォワヤール、ティエリー・ピュズラ、アリス・ブヴォ
- イタリア:フランク・コーネリッセン、ラディコン、グラヴナー
- 日本:ココ・ファーム・ワイナリー、ドメーヌ・タカヒコ
これらの生産者の名前を覚えておくと、ワインショップやレストランで選びやすくなります。
知っておくと差がつく豆知識
「SO2ゼロ」は本当にゼロではない
実は、亜硫酸塩(SO2)は発酵過程で自然に生成される物質でもあります。つまり、「SO2無添加」と書かれていても、完全にゼロというわけではなく、通常5〜10mg/L程度は含まれています。完全なゼロは物理的にほぼ不可能なんです。
また、SO2の役割は酸化防止だけでなく、望ましくない微生物の活動を抑える効果もあります。そのため、無添加ワインは時として揮発酸(酢酸)が高まりすぎたり、予期しない発酵が起きたりするリスクも。「無添加=必ず良い」というわけではなく、生産者の技術と管理能力が問われるのです。
「濁り」は欠陥ではなく個性
通常のワインは、濾過や清澄化によってクリアな液体に仕上げられます。一方、ナチュラルワインの多くは無濾過のため、酵母や果実の微粒子が残り、濁って見えます。
これを「未完成」と感じる人もいますが、実はこの濁りの中にアミノ酸やビタミン、ミネラルが豊富に含まれており、味わいに厚みと複雑さを与えています。日本酒で言えば「にごり酒」のようなものですね。
ちなみに、ボトルの底に沈殿物(澱)があるのも正常です。グラスに注ぐ際、最後の少しは注がないようにするか、気にせず全部注いでしまっても大丈夫です。
ナチュラルワインの「再発酵」事件
ごく稀に、ボトルの中で再発酵が起きることがあります。温度変化や糖分の残存が原因で、開栓時に泡が噴き出したり、予期しない発泡が生じたりすることがあるんです。
これは生産者にとっても消費者にとってもリスクですが、同時に「生きている証拠」とも言えます。輸入業者や販売店はこのリスクを理解した上で取り扱っており、問題があれば通常は交換対応してくれます。購入時に保管方法を確認し、なるべく早めに飲むことがトラブル回避のコツです。
よくある質問
ナチュラルワインは本当に体に良いのですか?
「体に良い」という表現は慎重になるべきですが、添加物が少ないという意味では従来のワインよりナチュラルです。亜硫酸塩に対してアレルギーや過敏症がある人(喘息患者の約5〜10%)にとっては、選択肢として有益です。ただし、アルコール自体は体に負担をかけるため、「健康に良いから飲む」という発想は避けた方が良いでしょう。適量を楽しむことが大前提です。
ナチュラルワインは値段が高いのでしょうか?
必ずしもそうではありません。確かに小規模生産のため大量生産ワインより高めの傾向はありますが、3,000〜5,000円程度で素晴らしいものが多数あります。むしろ、同価格帯の工業的なワインと比べて個性や造り手のストーリーを感じられる分、コストパフォーマンスは高いと感じる人も多いです。一方、有名生産者のものは10,000円を超えることもあります。
普通のワインとナチュラルワイン、どちらが美味しいですか?
これは完全に好みの問題です。安定した味わいとクリーンな果実味を求めるなら従来のワインが良いでしょう。一方、複雑さ、個性、予測不可能性を楽しみたいならナチュラルワインが向いています。どちらが優れているという話ではなく、気分やシーンに合わせて選ぶのがベストです。ワインラバーの多くは、両方のタイプを楽しんでいます。
ナチュラルワインは保管が難しいですか?
通常のワインより少しデリケートです。酸化防止剤が少ないため、高温や光、振動の影響を受けやすくなります。購入後はできるだけ早めに飲むこと、保管する場合は冷暗所(できればワインセラーや冷蔵庫の野菜室)で立てて保管することをおすすめします。開栓後は必ず冷蔵し、1〜2日以内に飲み切るのが理想です。
初心者はどこでナチュラルワインを買えば良いですか?
まずはナチュラルワイン専門店やそのオンラインショップが安心です。東京なら「アヒルストア」「ワインショップ エノテカ」の自然派コーナー、大阪なら「ミルポア」などが有名です。また、ナチュラルワインを扱うビストロやワインバーで気に入ったものを見つけ、店員さんに購入先を聞くのも良い方法です。最近は大手ワインショップでも自然派コーナーが充実してきています。
まとめ
ナチュラルワインは、明確な定義がない自由なカテゴリーでありながら、健康志向やサステナビリティ、個性を重視する現代の価値観と見事に合致して人気を博しています。その魅力は、安定性よりも多様性、予測可能性よりも驚きにあります。
- オーガニック・ビオディナミとの違いを理解する:ナチュラルワインは醸造過程での介入を最小限にし、亜硫酸塩をほぼ使わない点が最大の特徴
- 味わいの個性と変化を楽しむ:当たり外れがあるのは欠点ではなく、生きたワインの証。信頼できる店で選び、保管に注意すれば失敗は減らせる
- まずは飲みやすいタイプから:ペティアン・ナチュレル、ボージョレーのガメイ、オレンジワインの順で試すと、段階的に理解が深まる
ナチュラルワインの世界は、正解のない冒険です。「これが好き」「これは合わない」という自分なりの基準を見つける過程こそが楽しみ。まずは気軽に一本手に取ってみてください。きっと新しいワイン体験が待っていますよ。
そして、ナチュラルワインを深く知るほど、ブドウ栽培の地域性やテロワール(土地の個性)への興味も広がります。次はぜひ、特定の産地や生産者に焦点を当てた探求を始めてみてはいかがでしょうか。