フランス、イタリア、スペインといった伝統的な産地に飽きてきていませんか?実は今、世界のワイン市場では劇的な変化が起きています。気候変動、グローバル化、そして新しい醸造技術の進化によって、かつては無名だった産地が次々と頭角を現しているのです。
この記事では、ワイン業界のトレンドウォッチャーや評論家たちが口を揃えて注目する5つの産地を深掘りします。2026年のワインシーンを先取りして、友人や同僚との会話で一目置かれる存在になりましょう。
ジョージア: クヴェヴリ製法が世界を席巻
結論から言えば、ジョージアは「ワイン発祥の地」という歴史的な権威と、革新的な製法の両方を武器に、今まさに世界市場で爆発的な注目を集めています。
8000年の歴史を持つワイン文化
ジョージア(旧グルジア)は、考古学的証拠によれば紀元前6000年頃からワイン造りを行っていた、文字通り世界最古のワイン産地です。コーカサス山脈の南側に位置するこの国は、黒海とカスピ海に挟まれた独特の気候帯にあり、500種類以上もの固有ブドウ品種を育んできました。
特筆すべきは「クヴェヴリ」と呼ばれる巨大な土器を地中に埋めて発酵・熟成させる伝統製法。この技術は2013年にユネスコ無形文化遺産に登録され、世界的な注目を浴びました。
オレンジワインブームの震源地
多くの人が誤解しているのが、オレンジワインの起源です。実はこのスタイルはジョージアで数千年前から作られていたもの。白ブドウを果皮・種子ごと発酵させることで、オレンジがかった色合いと複雑なタンニンを持つワインが生まれます。
2010年代後半から欧米のナチュラルワインムーブメントと結びつき、ジョージアワインは一気にトレンドの中心に躍り出ました。ニューヨークやロンドンの高級レストランでは、ジョージアのオレンジワインがソムリエの推奨リストに載るのが当たり前になっています。
注目すべき品種と生産者
代表的な白ブドウ品種「ルカツィテリ」は、クヴェヴリ製法で醸されると蜂蜜やドライアプリコットのような複雑な香りを放ちます。赤なら「サペラヴィ」が定番で、濃厚な色素と酸味が特徴です。
生産者では、Pheasant's Tears(フェザンツ・ティアーズ)やOur Wine(アワー・ワイン)といった小規模ながら品質志向の醸造家が国際的な評価を獲得。価格帯は3,000円〜8,000円程度で、この品質としては驚異的なコストパフォーマンスです。
南アフリカ: コスパと品質の両立で急成長
「南アフリカのワイン?安いだけでしょ」――そう思っているなら、完全に時代遅れです。
300年の歴史と新世代の革新
南アフリカのワイン造りは1659年に始まり、ケープタウン周辺のステレンボッシュやフランシュックといった地域は、地中海性気候とテロワールの多様性で知られています。しかし長年、アパルトヘイト政策による国際的孤立と大量生産志向が品質向上の妨げとなっていました。
状況が一変したのは1994年の民主化以降です。若い世代の醸造家たちが欧州で修業を積み、帰国後に革新的なワイン造りを開始。2000年代以降、国際コンクールでの受賞が相次ぎ、今や「ニューワールドの隠れたスター」として業界内で高く評価されています。
シュナン・ブランの再発見
南アフリカで最も栽培面積が広い白ブドウ品種「シュナン・ブラン」(現地では「スティーン」とも呼ばれる)が、今世界的な再評価を受けています。
フランス・ロワール地方原産のこの品種は、南アフリカの強い日照と冷涼な夜間気温のもとで、ロワールとは全く異なる表情を見せます。トロピカルフルーツの華やかさと、骨格のあるミネラル感を併せ持つスタイルは「モダン・シュナン」として脚光を浴び、価格は2,000円台から入手可能です。
サステナビリティへの先進的取り組み
南アフリカワイン産業のもう一つの強みが、環境配慮への姿勢です。Wines of South Africaが推進する「Integrated Production of Wine(IPW)」認証制度は、生物多様性の保全と持続可能な農業を両立させる取り組みで、すでに生産量の95%以上がこの基準に準拠しています。
ESG投資やサステナビリティを重視する消費者層(特にミレニアル世代とZ世代)にとって、この点は大きな選択理由になります。
クロアチア・スロベニア: アドリア海沿岸の隠れた宝石

アドリア海に面したこの2カ国は、ヨーロッパのワイン愛好家にとっては「知る人ぞ知る」存在ですが、日本ではまだほとんど知られていません。だからこそ、今が仕込み時です。
イタリアとの深いつながり
クロアチアのイストリア半島とスロベニアの西部地域は、かつてヴェネツィア共和国の支配下にあり、イタリアワイン文化の強い影響を受けています。実は、イタリアの高級白ワイン用品種「マルヴァジア」や赤の「テラン」は、この地域が原産地とされています。
地理的にはイタリア・フリウリ地方のすぐ東側。石灰岩質土壌と海からの風が生み出すテロワールは、フリウリに勝るとも劣らない品質を生み出しながら、価格は3分の1から半分程度というのが魅力です。
クロアチアの多様性
クロアチアは南北に長い海岸線を持ち、地域によって気候が大きく異なります。北部イストリアでは白ワイン(マルヴァジア・イストリアナ)が主流、ダルマチア地方では力強い赤ワイン(プラヴァツ・マリ)が造られ、南端のペリェシャツ半島では濃厚な赤ワイン(ディンガチ)が名産です。
特に注目したいのが「ポシップ」という白ブドウ品種。コルチュラ島原産で、塩味を感じるミネラル感と柑橘系の爽やかさが特徴。魚介料理との相性は抜群で、日本食にも驚くほどマッチします。
スロベニアのオレンジワイン
スロベニア西部のゴリシュカ・ブルダ地域は、実はジョージアと並ぶオレンジワイン(アンバーワイン)の伝統的産地です。「リボッラ・ジャッラ」という品種を使った琥珀色のワインは、果皮と共に長期間発酵させることで、独特の複雑味とタンニンを獲得します。
生産者Movia(モヴィア)は、1700年代から続く家族経営のワイナリーで、ビオディナミ農法を実践。そのオレンジワインは世界中のナチュラルワイン愛好家から熱狂的な支持を得ています。
中国・寧夏回族自治区: アジアのナパバレー

そもそも、なぜ中国のワインなのでしょうか?答えは単純です――品質と投資額が桁違いだからです。
砂漠を切り開いた奇跡の産地
寧夏回族自治区は、中国北西部に位置する乾燥地帯。北緯38度線付近という緯度は、フランス・ボルドーやアメリカ・ナパバレーとほぼ同じです。黄河が流れる肥沃な土壌、大陸性気候による昼夜の寒暖差、年間降水量200mm程度という乾燥した環境は、病害が少なく高品質なブドウ栽培に理想的です。
ただし冬季の気温は-20℃まで下がるため、ブドウ樹を土に埋めて越冬させるという独特の栽培法が取られています。この手間のかかる作業が、かえってブドウの凝縮度を高める結果となっています。
国家戦略としてのワイン産業
中国政府は2000年代以降、寧夏をワイン産業の重点育成地域に指定。2010年代には数千億円規模の投資が行われ、フランスやオーストラリアから招聘された醸造家たちが最新技術を導入しました。
現在、寧夏には200以上のワイナリーが存在し、その多くが近代的な設備とシャトースタイルの建築を持っています。主要品種はカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シラーなど国際品種が中心です。
国際評価の急上昇
2011年、Decanter World Wine Awards(世界最大規模のワインコンクール)で、寧夏のワインが初めて金賞を受賞。以降、毎年のように受賞ワインが増え続け、2021年には10本以上のワインが金賞以上を獲得しました。
特に「Helan Qingxue(賀蘭晴雪)」や「Silver Heights(銀色高地)」といった生産者は、ブラインドテイスティングでボルドーの有名シャトーと比較されても遜色ない評価を受けています。価格帯は4,000円〜15,000円程度で、品質を考えれば驚異的なコストパフォーマンスです。
入手方法と今後の展望
現状、日本で寧夏ワインを扱う専門店はまだ限られていますが、オンライン通販や中華系の酒販店で少しずつ取扱いが増えています。中国国内市場の拡大に伴い、2026年以降は本格的な輸出増加が見込まれており、今のうちから注目しておく価値は十分にあります。
日本・北海道: 世界が注目する冷涼産地の躍進
正直なところ、日本ワインといえば山梨や長野が定番でしたが、今や北海道が最もホットな産地です。
気候変動が追い風に
地球温暖化は多くの伝統的ワイン産地にとって脅威ですが、北海道にとっては千載一遇のチャンスとなりました。かつてブドウ栽培の北限とされた地域が、今ではピノ・ノワールやシャルドネといった高級品種の理想的な栽培地になっているのです。
特に空知地区(余市・仁木)、後志地区(岩見沢)、十勝地区(池田)は、冷涼気候特有の酸味と繊細なアロマを持つワインを生み出しています。北緯43度という緯度は、フランス・ブルゴーニュ地方とほぼ同じです。
国際品種での成功例
余市のピノ・ノワールは、すでに国際的な評価を獲得しています。2018年、余市産ピノ・ノワールがDecanter誌で95点という高得点を獲得し、「日本のブルゴーニュ」として世界に知られることとなりました。
岩見沢のシャルドネも注目株です。10R(トアール)ワイナリーが造るシャルドネは、ミネラル感豊かで繊細な酸が特徴。ブラインドテイスティングで欧州産と間違えられることもしばしばです。
北海道ワインの課題と可能性
課題は生産量の少なさと価格の高さ。多くのワイナリーが小規模で、1本あたり3,000円〜8,000円という価格帯は、デイリーワインとしては手が出にくいかもしれません。
しかし逆に考えれば、それだけ希少価値が高いということ。ワイン投資の観点からも、今のうちに北海道の有力生産者のワインを押さえておくことは、将来的に大きなリターンを生む可能性があります。特に「10R」「ドメーヌ・タカヒコ」「農楽蔵」といった生産者のワインは、すでに入手困難になりつつあります。
訪問価値のあるワイナリー体験
北海道ワインのもう一つの魅力が、観光との親和性です。余市や仁木のワイナリーは、札幌から車で1時間程度。醸造所見学やテイスティングルームを備えた施設が増えており、週末の小旅行にも最適です。
特に秋の収穫期(9月下旬〜10月)には、ブドウ畑の美しい風景と収穫体験を楽しめるイベントが各所で開催されます。ワインツーリズムとしての価値も、今後さらに高まっていくでしょう。
知っておくと差がつく豆知識

「クライメート・チェンジ・ワイン」という新カテゴリー
実は今、気候変動によって新たに栽培可能になった産地のワインを「クライメート・チェンジ・ワイン」と呼ぶ動きがあります。北海道だけでなく、イギリス南部やデンマーク南部でもスパークリングワインの生産が始まっており、2030年代にはスコットランドやノルウェーでもワイン造りが本格化すると予測されています。
ワイン投資としての新興産地
伝統的な投資対象はボルドーやブルゴーニュの有名シャトーですが、最近では新興産地の「ファースト・ヴィンテージ」(初リリース年のワイン)を収集するコレクターが増えています。産地が有名になる前に入手したワインは、10年後に数倍の価値になることも。特にジョージアと北海道は要注目です。
地政学とワインの関係
意外に見落としがちなのが、地政学的要因です。クロアチアとスロベニアはEU加盟国であり、関税や輸入規制が緩和されているため、今後日本市場での流通が急速に拡大する可能性があります。一方、中国ワインは政治的緊張によって輸入が不安定になるリスクも。こうした背景知識を持っておくと、ワイン選びにも深みが出ます。
よくある質問
これらの新興産地のワインは、どこで買えますか?
現状では専門性の高いワインショップやオンライン通販が主な入手先です。ジョージアワインは「マヴィ」「ヴィノスやまざき」などの自然派ワイン専門店で、南アフリカワインは「エノテカ」「久世福商店」などで取り扱いがあります。クロアチア・スロベニアワインはまだ流通量が少ないため、輸入元である「アルカン」や「ラシーヌ」のオンラインショップをチェックするとよいでしょう。北海道ワインは各ワイナリーの直販サイトが確実です。
初めて試すなら、どの産地から始めるべきですか?
コストパフォーマンス重視なら南アフリカのシュナン・ブラン、個性派を求めるならジョージアのオレンジワインがおすすめです。日本料理との相性を考えるなら、クロアチアのマルヴァジアか北海道のシャルドネが鉄板です。ワイン投資の視点があるなら、中国・寧夏のトップ生産者か北海道の人気ワイナリーを早めに押さえておくとよいでしょう。
伝統的な産地のワインとの違いは何ですか?
最大の違いは「価格と品質のバランス」です。伝統的産地では土地代やブランド価値が価格に上乗せされますが、新興産地ではまだその分が少ないため、同じ品質のワインがより手頃な価格で手に入ります。また、伝統に縛られない自由な醸造スタイルも魅力。一方で、品質のばらつきや情報の少なさはデメリットです。信頼できる輸入元や専門家のレビューを参考にすることをおすすめします。
これらの産地は一過性のブームではないのですか?
一部の産地はブームで終わる可能性もありますが、ここで紹介した5産地は「構造的な強み」を持っています。ジョージアは歴史的権威、南アフリカは規模とインフラ、クロアチア・スロベニアは地理的優位性、中国は国家戦略と巨大市場、北海道は気候変動への適応という、それぞれ異なる強みがあります。少なくとも今後10年は成長が続くと業界関係者の多くが予測しています。
レストランで注文するときの注意点は?
新興産地のワインをレストランで注文する際は、ソムリエに「どんな料理に合わせたいか」を明確に伝えることが重要です。例えば「魚料理に合うジョージアのオレンジワインはありますか?」と具体的に聞くと、適切な提案をしてもらえます。また、グラスワインで試せる店も増えているので、まずは少量から試すのも賢い選択です。東京なら「アハシ」(ジョージア料理)、「TACUBO」(南アフリカワイン)など、各産地に特化したレストランも登場しています。
まとめ
2026年に注目すべき5つのワイン産地を紹介しました。ポイントをまとめると:
- ジョージア:8000年の歴史とクヴェヴリ製法、オレンジワインの震源地として世界的ブーム
- 南アフリカ:シュナン・ブランの再評価とサステナビリティへの先進的取り組みで急成長
- クロアチア・スロベニア:アドリア海沿岸の隠れた銘醸地、イタリアの3分の1の価格で同等の品質
- 中国・寧夏:国家戦略による巨額投資と国際的評価の急上昇、アジアのナパバレー
- 日本・北海道:気候変動を追い風に、ピノ・ノワールとシャルドネで世界に通用する品質を実現
まずは気になる産地のワインを1本試してみてください。伝統的な産地では味わえない、新鮮な驚きと発見があるはずです。そして次回のワイン会や友人との食事で、この記事の知識をさりげなく披露してみましょう。「実は今、ジョージアのワインが熱いんだよ」という一言が、会話を一気に盛り上げてくれるはずです。
ワインの世界地図は、今まさに書き換えられています。トレンドの最前線を走る楽しさを、ぜひ味わってください。